『おおきく振りかぶって vol.1』ひぐちアサ

今誰かに「何か面白いマンガない?」と訊かれたなら、とりあえず「おお振りだね」と答えておけば間違いはありません。相手が男だろうが女だろうが一般人だろうがオタクだろうが腐女子だろうが関係なく、それで大丈夫。
やはり女性が描いている野球マンガだからこそ、こんなにも魅力的なんでしょう。野球マンガにも色々と種類はあるけれど、これはリアリティのある野球マンガです。選手の体作りやイメージトレーニング、ボールを投げるときの腕の動き、試合の展開の仕方など、相当に目の肥えた野球好きの人も納得の出来なのではないでしょうか。なにより唸らされるのは、投手の三橋君と捕手の阿部君とのあいだで行き来する、ある種の心理的な「駆け引き」でしょう。もちろん「野球マンガ」のなかにも「駆け引き」を主題としたものは少なくないけれど、あくまで野球のそれに限定されがちです。しかしこの作品の場合、三橋君と阿部君との人間的な「駆け引き」がむしろ前面に出てきています。それは何か、疑惑や懐柔や和解や熱っぽさや権力や、とどのつまりどこか恋愛的な要素を含んでいる。このvol.1に収録されているおまけまんが②『タイム発表&打順決め』などは、この作者の関心が向かっている方向をよく表しているものでしょう。野球という中心をめぐるということは、ある種官能的な人間関係の磁場を生きるということだと。こういう方向性で野球マンガを作ろうという発想は、なかなか出てきそうで出てこないものです。
というわけで、男子高校生バージョンの「マリみて」であると言ってもいいこの作品。猛烈にプッシュです。もちろんマネジもプッシュです。