吉崎観音『ケロロ軍曹 8』角川コミックス・エース

ここ3日間ほど、毎日2〜3冊のペースで単行本を買い続けて一気に既刊ぶんを読み終わりました。このマンガに興味を持ったきっかけは4月から始まったアニメで、キャラが可愛い感じだなあと試しに一冊でもというノリだったのですが、いやいや、マンガとして、とても素晴らしい作品です。これまで全くチェックしていなかった自分が恥ずかしくなってくるほどです。
なんというか、馬鹿みたいに丁寧で、真面目なギャグマンガなのです。王道のギャグマンガといっても良いでしょう。一話一話、それぞれがしっかり状況を設定され、ストーリーが構成され、そして綺麗に完結します。決してページ数が多いわけではないのに、伏線がしっかりと張られていて、笑わせられるだけでなく読み応えがあります。ギャグを散りばめただけとか、ナンセンスな雰囲気でごまかしてしまうとか、女の子が萌えーだとか、そんな昨今のギャグマンガ(と称する)数々のものが、急速に許せなくなってしまうほどです。アイデアが全く尽きないというのもすごいことです。新キャラもの、季節もの、あらゆる手法を駆使しながら、5年も続いているこのマンガは全く飽きさせないのですから。
しかし、何といってもこの作品の魅力は、ウェルメイドな感動まで提供してくれるということでしょう。特に新しい話にはその傾向が強いです。ギロロ伍長の夏美への可愛い恋心の話とか、なんだかんだで地球を愛してしまっているケロロ隊の話とか色々ありますが、2話に渡って展開されたケロロ隊が本部に呼び出されてしまい夏美たちが記憶を消去されてしまう話、この圧倒的な喪失感の凄み、それが緩やかに解けてゆくあのオチのつけ方などは、本当に最終回であっても良かったと思ってしまうほどに、感動的でした。ネーム段階でもの凄く練り上げているんでしょう、本当に丁寧に作り込まれている作品です。
そしてこの8巻、アニメ化ということで何か作者に心境の変化でもあったのでしょうか、あくまで繊細な、しかしセンチメンタルなシーンというものが散りばめられています。『衝動買!我翼整備不良!?…の巻』の、迷子になったケロロが田舎の道端で途方に暮れている情景は、とてもとても寂しい。「う……う……」「さむいよう」「くらいよう」「おなかへったよう……」というフキダシの入れ方なども素晴らしいです。その直後、夏美が背中の機器のせいで天使のように現れるという粋な演出も、見事に効果をあげています。あるいは『潜入!漫画家的秘密強奪大作戦…の巻』、ケロロが扉の隙間から見てしまった心血を注ぎながらペンを走らせる漫画家の姿、そして大ゴマで表現される「カリ カリ」というオノマトペには、もはや慄然とさせられます。このシーンは、吉崎観音という作者の根本にある熱い心性をたしかに感じさせます。
もちろん、女の子の絵がとても肉感的で官能的でエッチに描かれているとか、膨大な過去のマンガやアニメのパロディに満ち溢れているとか、そういう辺りもこのマンガの魅力ではあります。しかし、それだけで済ましてしまう訳にはいきません。実に、マンガとしての魅力が満ち溢れている作品に仕上がっています。上のような理由で、逆に敬遠している人がいれば、それはとてももったいないことだと思います。『潜入!……』で手塚治虫らしき人物が呟く「新しい何かを創るのは…今ここにいる君達だけの特権なのだ」という言葉は、この作者のなかにあるマンガへの意欲でもあるに違いないのです。パロディもまた、マンガへの真摯な愛の変奏なのでしょう。