最近読んだもの

:よしながふみ西洋骨董洋菓子店1〜4』WINGSCOMICS
:よしながふみ『愛すべき娘たち』ジェッツコミックス
:よしながふみ『こどもの体温』WINGSCOMICS
:よしながふみフラワーオブライフ 1』WINGSCOMICS
これまで女性向けのマンガに手を出しては失敗というか理解できないという想いを募らせるばかりでしたが、このよしながふみさんに関しては、もう理解できて嬉しいとか超えて、メロメロにさせられてしまいました。ほんと、この人のマンガには麻薬的な魅力があります。ページを開くのが、ほとんど快楽の次元に達しちゃってます。本来ならばこういうマンガに出合ったときにこそ、何かちょっとした感想を書いてやろうって気分になるべきなのですが、この人の作品については容易に語ってはいけない気がします。ていうかこのマンガの魅力について有意義な言葉をあてることができるようになるために、これからマンガと付き合っていきたい、というくらい。
西洋骨董洋菓子店』は月9でドラマ化された事実だけは認知していてドラマ自体は全く見てなかったんですが、その事実だけで敬遠している人(私もそうだった!)がいれば、騙されたと思って、冒頭の一話だけでもどのような手段を使ってでも読んでみてください。私は、この話でよしながふみ童貞を失いましたが、伊藤さんという女性の高校時代の「びくぅっ」のエピソード、そしてケーキ屋さんを見つけて振り返るシーン、これだけでもう・・・。マンガ観というか世界観自体がぐらつくくらいの衝撃の体験でした。マンガって本当にいいもんですね。
『愛すべき娘たち』、これが私のイチオシということになります。・・・何も書けないです。読んで、このノリというかグルーブというか、マンガを読むという体験独自の快楽というか、そういうものを感じてください。(ちなみに「ハッシュ!」という映画に対する極めて簡潔で的確で圧倒的に正しい感想が出てきます。これがまた素晴らしい)
『こどもの体温』、よしながふみ文体みたいなものが完全に確立してはいない頃のものだと思うんですが、それでも素晴らしい。
フラワーオブライフ』は最新作。ちょっと新境地、なのでしょうか?この作品はきっと重要な位置をこれから占めるんだろうけど、それだけしか言葉の持ち合わせがありません。畜生。真島君が「アレ」で騙される話が好きです。相沢さんが、途轍もなく、正しい。正しさというか倫理を謳い上げているにもかかわらず、なんでこんなに胡散臭くないんだろう。ちょっとだけ舞城王太郎を思い出しました。あああ。畜生。
よしながふみさんは色々ほかにも作品があるんだけど、実はそもそもボーイズラブを得意とする人らしくて、ここまで雰囲気がないものばかり選んできたけど(そして実際「当たり」を引いてきたつもりだけど)、いよいよそういうのまで手を出さなきゃあなりません。楽しみなような恐ろしいような。

よしながふみについてネットで読める評論とかどこかに無いかなあ。夏目房之介さんのブログによれば研究会とかで取り上げられているらしいんですけど、研究会って何?? ていうか夏目さんがブログ始めてただなんて!(キーワードで飛べます)

吉崎観音『ケロロ軍曹 8』角川コミックス・エース

ここ3日間ほど、毎日2〜3冊のペースで単行本を買い続けて一気に既刊ぶんを読み終わりました。このマンガに興味を持ったきっかけは4月から始まったアニメで、キャラが可愛い感じだなあと試しに一冊でもというノリだったのですが、いやいや、マンガとして、とても素晴らしい作品です。これまで全くチェックしていなかった自分が恥ずかしくなってくるほどです。
なんというか、馬鹿みたいに丁寧で、真面目なギャグマンガなのです。王道のギャグマンガといっても良いでしょう。一話一話、それぞれがしっかり状況を設定され、ストーリーが構成され、そして綺麗に完結します。決してページ数が多いわけではないのに、伏線がしっかりと張られていて、笑わせられるだけでなく読み応えがあります。ギャグを散りばめただけとか、ナンセンスな雰囲気でごまかしてしまうとか、女の子が萌えーだとか、そんな昨今のギャグマンガ(と称する)数々のものが、急速に許せなくなってしまうほどです。アイデアが全く尽きないというのもすごいことです。新キャラもの、季節もの、あらゆる手法を駆使しながら、5年も続いているこのマンガは全く飽きさせないのですから。
しかし、何といってもこの作品の魅力は、ウェルメイドな感動まで提供してくれるということでしょう。特に新しい話にはその傾向が強いです。ギロロ伍長の夏美への可愛い恋心の話とか、なんだかんだで地球を愛してしまっているケロロ隊の話とか色々ありますが、2話に渡って展開されたケロロ隊が本部に呼び出されてしまい夏美たちが記憶を消去されてしまう話、この圧倒的な喪失感の凄み、それが緩やかに解けてゆくあのオチのつけ方などは、本当に最終回であっても良かったと思ってしまうほどに、感動的でした。ネーム段階でもの凄く練り上げているんでしょう、本当に丁寧に作り込まれている作品です。
そしてこの8巻、アニメ化ということで何か作者に心境の変化でもあったのでしょうか、あくまで繊細な、しかしセンチメンタルなシーンというものが散りばめられています。『衝動買!我翼整備不良!?…の巻』の、迷子になったケロロが田舎の道端で途方に暮れている情景は、とてもとても寂しい。「う……う……」「さむいよう」「くらいよう」「おなかへったよう……」というフキダシの入れ方なども素晴らしいです。その直後、夏美が背中の機器のせいで天使のように現れるという粋な演出も、見事に効果をあげています。あるいは『潜入!漫画家的秘密強奪大作戦…の巻』、ケロロが扉の隙間から見てしまった心血を注ぎながらペンを走らせる漫画家の姿、そして大ゴマで表現される「カリ カリ」というオノマトペには、もはや慄然とさせられます。このシーンは、吉崎観音という作者の根本にある熱い心性をたしかに感じさせます。
もちろん、女の子の絵がとても肉感的で官能的でエッチに描かれているとか、膨大な過去のマンガやアニメのパロディに満ち溢れているとか、そういう辺りもこのマンガの魅力ではあります。しかし、それだけで済ましてしまう訳にはいきません。実に、マンガとしての魅力が満ち溢れている作品に仕上がっています。上のような理由で、逆に敬遠している人がいれば、それはとてももったいないことだと思います。『潜入!……』で手塚治虫らしき人物が呟く「新しい何かを創るのは…今ここにいる君達だけの特権なのだ」という言葉は、この作者のなかにあるマンガへの意欲でもあるに違いないのです。パロディもまた、マンガへの真摯な愛の変奏なのでしょう。

あずまきよひこ『よつばと!2』DENGEKI COMICS

1巻はとても良かったんですが、今回の2巻、ちょっと悪い方向へ行き始めちゃってるような気がします。
1巻はそれほどでもなかったんですが、女の子、とくに風香という登場人物の胸があまりにも強調されすぎです。このマンガにおいては、決してエロが前面に出てくるようなことはないけれど、あずまきよきひこという作者は明らかに、女性の体の線というものに偏執的なまでに拘っている。こういう、そこはかとないエッチさというものが、どうにも私には鼻につきます。
このマンガは、一見、日常を描いているように思えるけれど、完全なファンタジーです。波乱万丈なマンガもファンタジーですが、まったく何も起こらない、人物たちの感情が揺れ動かないマンガも、ファンタジーです。
だからこそ、読者にとってよつばの住む世界というものは、虚構が現実へと反転してゆくような感覚を味あわせてくれる、という魅力を秘めているのではないでしょうか。その虚構世界は、とても居心地が良さそうに見えます。よつばの父親も、たぶんジャンボも、気ままな自由業者だし、出てくる女の子はみんな可愛いけれど、友達感覚で付き合えそう。この世界においては、徹底的に「労働」と「恋愛」が消去されています。世知辛さのカケラもありません。そんなファンタジーが、日本のどこにでもありそうな町の風景のなかにセットされているわけですから。
しかし、そこで性欲が問題になってくる。性はマンガのリアリティにとって不可欠です。とくにこの種のオタクに強くアピールするようなマンガにとっては、なおさらそうです。ところが、『よつばと!』の世界に性を導入することは、とても困難です。あるいは、あずまきよひこのマンガ全般において言えることかもしれない。虚構を現実と錯視させることこそが、その魅力だから。「性」の前段階として「恋愛」を描けば、きつくなる。「性」を直截に押し出せば、ファンタジーであることが明白になってしまう。そういうジレンマのなかで選択されたのが、このTシャツを愛好する風香という女の子だったのではないでしょうか。
この2巻においては、そんな隠微すぎる欲望が剥き出しになっているような気がします。ちょっと読むのが辛い。もうちょっと自然な形で女の子を描いて欲しい。
とはいえ、笑えることは笑えます。2巻では、1巻に較べるとなんとも弛緩したコマ割りになっているけど、やはりそこそこマンガらしいリズムもきちんと刻んでます。「あずまんが大王」同様に、終わりへの緊張感というものが全編をしっかりと貫いているのもいいです。
そしてもう一つ。お隣の綾瀬家の「父親」というものを、どう処理するのかということを、どうやらあずまきよひこも考えている様です。
あずまきよひこの前作『あずまんが大王』の、余りにもあっけない終わり方というものに、私は倫理的な好感を抱いています。なんとか頑張って欲しい。

熊倉隆敏『もっけ 3巻』アフタヌーンKC

アフタヌーン誌で隔月連載されている妖怪マンガの最新刊。怪(け)の姿を見ることができる長女・静流と怪に憑かれやすい次女・瑞希の姉妹と、様々な怪との交流を、一話完結の形式で描いているものです。
このマンガの特徴は、とてもオーソドックスな教訓物であることです。姉妹は田舎の村で「お爺ちゃん」と暮らしているのですが、このお爺ちゃんという人物が、怪との交流の仕方についてある種の倫理的なスタンスを採ります。多感な年頃の姉妹は怪に多かれ少なかれ悩まされることが多く、その度に、直接的な解決策に頼りたい(つまりいっそ「祓」ってしまいたい)という気持ちを隠すことができません。しかしお爺ちゃんはそれを戒め、怪を解説し、その理解をまず促す。お爺ちゃんの助けを借りながら、姉妹は怪との出会いと別れを通じて、何事かを感じ取り、学んでいくことになります。そして、その根底にあるのは、「ほっとくのが一番なんだ」というお爺ちゃんの言葉(一巻所収「オクリモノ」)が象徴するように、他者を他者として認めながら生きてゆくということです。
1巻では「スダマガエシ」、2巻では「ヒョウタナマズ」などが他者と主題化したエピソードでしたが、3巻では「イナバヤマ」「ダイマナコ」の2話がそれを鮮やかにやってのけています。「イナバヤマ」では、飼い猫の「三毛さん」が姿を消したことをきっかけに、静流は猫の他者性というものをおもいしらされ、その上での態度決定を迫られます。読了後、静かな感動がこみ上げてくるとても素敵なエピソードになっています。あるいは「ダイマナコ」は、一つ目のとても愛らしい、この世から忘れられつつある=消えつつある厄神が、自分が消えるということを新しく再生してゆく喜びとして語りますが、その再生する自分というものも、また他者に他ならないわけです。これまた印象的なエピソードです。
こういった他者との付き合い方を怪を通じて学んでいくのが、思春期の少女であるというのは、とても面白いところです。彼女たちが考えたり感じたりしていることは、おそらく誰もが小学校高学年あるいは中学生の頃に記憶があることだろうと思いますが、それはとりもなおさず、自意識が芽生え、他人と自分との関係について頭を巡らせるということです。そこで自分が肥大したり、他人が抑圧的になったり、様々にバランスが揺れ動いてしまい、下手をすると後々までその人の人生に重苦しい影を落としてしまうこともある。そういった時期に、この姉妹は、怪という象徴的な表現を借りて程よいバランスを形成しつつあるのではないでしょうか。あるいは、逆に言えば、怪とはそもそもそのようなことを可能にするための先人の知恵の発明、つまりアフォリズムであったのかもしれません。このマンガには、甘酸っぱい教訓が沢山詰まっているような気がします。

忙しくなってしまいました。

4月からサラリーマンになってしまったため、ちゃんとした文章を書く時間や気力がありませぬ。とはいえ、マンガはコンスタントに時間を見つけては読むようにしていて、どうしても思ったことの一つや二つ、誰が読むかは分らないけれど発信してみたくなります。今後は軽いちょこちょこっとした感想を書いてゆきたいと思います。これまでは基本的に当該のマンガを未読の方にたいして勧めるような体裁で書いていたつもりでしたが、それはちょっと難しくなってしまうかもしれません。

『おおきく振りかぶって vol.1』ひぐちアサ

今誰かに「何か面白いマンガない?」と訊かれたなら、とりあえず「おお振りだね」と答えておけば間違いはありません。相手が男だろうが女だろうが一般人だろうがオタクだろうが腐女子だろうが関係なく、それで大丈夫。
やはり女性が描いている野球マンガだからこそ、こんなにも魅力的なんでしょう。野球マンガにも色々と種類はあるけれど、これはリアリティのある野球マンガです。選手の体作りやイメージトレーニング、ボールを投げるときの腕の動き、試合の展開の仕方など、相当に目の肥えた野球好きの人も納得の出来なのではないでしょうか。なにより唸らされるのは、投手の三橋君と捕手の阿部君とのあいだで行き来する、ある種の心理的な「駆け引き」でしょう。もちろん「野球マンガ」のなかにも「駆け引き」を主題としたものは少なくないけれど、あくまで野球のそれに限定されがちです。しかしこの作品の場合、三橋君と阿部君との人間的な「駆け引き」がむしろ前面に出てきています。それは何か、疑惑や懐柔や和解や熱っぽさや権力や、とどのつまりどこか恋愛的な要素を含んでいる。このvol.1に収録されているおまけまんが②『タイム発表&打順決め』などは、この作者の関心が向かっている方向をよく表しているものでしょう。野球という中心をめぐるということは、ある種官能的な人間関係の磁場を生きるということだと。こういう方向性で野球マンガを作ろうという発想は、なかなか出てきそうで出てこないものです。
というわけで、男子高校生バージョンの「マリみて」であると言ってもいいこの作品。猛烈にプッシュです。もちろんマネジもプッシュです。

『イノセンス』押井守監督

(感想だけどネタバレみたいなのはありません)
渋谷のTSUTAYAの上の映画館で鑑賞。とにかく、自分がこれまで観てきた限りの押井作品と較べるとかなり毛並みが違ってるなという印象。ものすごくストーリーが分かり易い。パトレイバー2しかり攻殻機動隊しかり、観ててあれれ?となってしまってビデオを一旦止めて巻き戻すということが多かったのに(押井作品はビデオでしかこれまで観たことなかった)今回はあっさりと筋が理解できてしまった。押井監督の映画はお堅い主題で作られている一方、それを前面に出してくるということはしないで、基本的にはスリリングな筋をスピーディーに展開して観客をぐいぐいと引っ張りながらそれとなくモチーフを散りばめてゆくというもののだったと思う。今回はそういった側面がない。その代わり、なんというか、思い切り「抒情」してしまっているシーンが多くなっている。もの凄くセンチメンタルな作品になっていて、人間味みたいなのがキャラクターに備わってきている。結局、今回の作品のモチーフはどちらかといえば、これまでの大枠で捉えられた人間についてのものというより、人間の感情とか気持ちとか中身の部分についてのものになっているんだと思う。映画の最後の方のバドーのあれやこれやは、これまでの押井映画のなかには見当たらない種類のものなんではないかな。
とはいえ、もう一度観に行こうと思う。あれやこれやの衒学的な引用については頭を巡らせる余裕がなかった。というか、やっぱり今回も難しかったw あと今作に限らず押井監督の映画はそうだけど、冒頭からOPまでの流れが麻薬的に気持ちよかったのでもう一度観たい。あと人形が綺麗だった。もっと人形の優美な動きを追ってみよう。