3月の新刊

ちょっと調べてみたら買いたいものが結構でるらしい。これだけはちゃんと感想をその都度書きたいものです・・・

幸村誠『プラネテス 4巻』モーニングKC

最終巻がついに出ました。思えばコンビニの夜勤中にゴミ捨て場から拾ってきた「モーニング」でたまたまこのマンガが載ってるのに出くわしたのが、丁度一年前くらい。そのまま帰り際に早い時間から営業している本屋で速攻1巻と2巻を一気買いしたというのが僕とこのマンガの付き合いの始まり(そんなに長くないな・・・)でした。
そのぼけっと煙草を吸いながら店の奥で初めて読んだプラネテスが、まさにここに収録されている「phase18 グスコーブドリのように」。ぼんやりとした頭ながら、とにかく「この人、マンガ上手い!」と思ったことだけはすごく覚えている。なにしろこっちは全く展開を知らないまま読んでいるのだからなんだこのマンガ?と普通なりそうなものだけど、冒頭の1ページで宮澤賢治の「春と修羅」が淡々と綴られ、そして次の開きページで墓地に佇む女性と雲間から指す微かな光が捉えられると、それだけで引き込まれてしまったような気がします。内容についても、そもそも墓地での男と女が会話をするだけなのにここまでスリリングに展開しながら、しかも両者の全てが分かるように構成されていて、もうひたすら唸るばかりだったと思います。
だから最初は、ああこれは短編連作なのだなと予想したのだけれど、それは当たったといえば当たっているし、当たってないといえば当たってない気もします。ただ、どちらかと言うと最初の出会いがそうであった以上、この作者さんは1話単位できっちり仕上げてきた回の方が、やはり良い。この人の構成の上手さというのは、短編にありがちな決して分かり難いものではなく、ちゃんと注意して読めば何もかもがきっちり読解できるという点にあります。つまり作者さんはかなり意識的に構成しているわけで、それが1話くらいの短さでやって貰えると丁度自分的に好きなタイトさみたいなのが出てくるのです。
そういう意味ではこの4巻が僕は一番好きです。フィー姐さんの連作も含め、おおよそ1話1話がきっちり完成されて緩やかな繋がっています。こんな贅沢な感覚はなかなか味わえるもんじゃありません。2巻あたりで辛くなって、という人も居るようですが、4巻を楽しむためにも頑張って読んで欲しい。4巻を楽しむためにもしっかりと読んで欲しい。そんな風に思っとります。
(内容レベルも文句なしのラストでした。もう最後のハチマキの言葉なんて分かってるのに分かってるのに泣きました。もうオッサンですから・・・あとフィー姐さんの「馬鹿可愛さ」はどうしてくれよう!でもこーゆー大人って日本に居なさそうだ・・・)

『ミニモニ。でブレーメンの音楽隊 第5話』

辻ちゃんは天性の女優であると改めて確信しました。あの存在感はただごとではない。演技に関していえば前回までの高橋愛が上手く器用にまとめている一方、辻ちゃんは見ていて時々「あれれ?」と脱臼させられるような感じがある。いや、正直にいえば、辻ちゃんの演技は下手な部分が一杯ある。今回だと、こんちゃんのお店の前でのいわゆる防衛反応的逃避を見て、辻ちゃんがキレる部分とか、明らかに怖すぎてやり過ぎ。でも、いきなり怖くなるという構成無視は問題だけれど、そこで「怖い!」と思わせてくれるのが、辻ちゃんのすごいところ。目元に力がある。もっといえば、目で場の空気を一変させてしまう。それ以外の部分ではミスが多いけれど、このことだけでもう十分すぎるほど女優合格です。はっきりいって、女優に必要なのは単なる演技力じゃなくて、視線に備わってくる存在感なのだ。その点で、高橋さんはちょっと物足りなかった。たとえば、ミカが歌う「傘がない」に耳を傾ける辻ちゃんの表情。何も台詞はないし、ただ辻ちゃんの眼差しを映すだけなのに、これだけで1シーンの間が持つ、どころかそこに緊張感がみなぎってしまう。視線だけで、観てる人間をサスペンドしてしまう。こんな演出を可能にしてくれる演技者なんて、そうザラにはいないです。たぶん、辻ちゃんは視線劇に向いている。アニメや漫画が描くような単純な感情ではなくて、不安や痛み、暴力や狂気のような底知れない情念のようなものを表現させればかなりいい線を行くと思う。そういうのって自分と状況が截然と区別できない磁場のようなものとの一体感だから、これは難しいはずだけど、それを辻ちゃんは容易にやってくれると思う。TVドラマじゃなくて、映画に向いている女優ってことかもしれない。来週も楽しみです。

ふたりはプリキュア

レポートで忙しい毎日にも関わらず、ここ2日間余り心の中で盛り上がりまくりのアニメです。日曜日8時半のテレ朝の枠で一昨日放映開始。いまだに2ちゃんねるアニメ板のスレの伸びは止まりません。おそらく、相当数のアニメファンが固唾を飲んであと数週間を見守ることになるんじゃないでしょうか。大ポカをやらかさなければ、ものすごい勢いになりそうな予感がします。明日のナージャの失敗(?)をきっちりと取り返そう、どころか、あわよくばおジャ魔女どれみも越えてしまおうくらいの意気込みを感じさせて余りある出来でした。さすがは東映アニメーション、と感嘆するしかない底力です。
見所は色々あるでしょうが、キャッチ―なOP&EDと、ワイヤー・カンフー・アクションを思わせるフィジカル・バトルが個人的にはツボでした。視聴後のあの爽快感は小さなお友達だけのものにしとくのはもったいない。あと町の空間の描き方も良かったです。全体的にごちゃっとしていていかにも日本的な狭さみたいなものを感じさせるし、EDの電車のなかから夕日に照らされながら窓の外を眺める(これってまほろまてぃっくにもあったような)カットは郊外沿線を思わせるし、これは結構リアリティがあるなあと唸ってしまいました。もちろん、大きなお友達的にも、黒キュアのスパッツや白キュアの天然っぷりは格好の萌えの餌食になりそうです。自分はどちらかといえば、黒派に属するような気がします。まあ、それはいいとして。
難点らしいところは、変身バンク動画がちょっと長すぎる&盛り上がらない、殴る蹴るをもっとたっぷり見せて欲しい(必殺技への移行が早すぎる)、敵役がなんかしょぼい、といったあたり。とくに今後の世界観の膨らみということを考えると、あの微妙な歌舞伎マン(?)といろいろな物を擬人化するこれまた微妙な魔力みたいなものだけでは、やはり不安が残ります。そして恐らくもっとも大きな問題は、とにかく玩具が売れてくれるかどうかということ。玩具さえ小さなお友達たちが買ってくれれば色々と余裕もできてくるし、大きなお友達的にも好都合。全ては、あのカードスリット式の携帯電話っぽいものにかかっています。男の子だったらカードとか収集欲がかきたてられると思うけれど、女の子ってどうなんだろう? ちょっとマニアックすぎると思うんですが・・・。まあ、ここらへんも注目しつつ見守っていきたいと思います。

マンガ三昧

『エマ』は1週間くらい前に読んだマンガなのです。というか年末年始で『エマ』を含めて20冊くらいマンガを読んだはずなのに、感想を書く時間も気力もなくて、せめて『エマ』だけでもと書いてみました。面白いマンガがまだまだたくさんあります。
である調なのはなぜだろう?

森薫『エマ』1〜3巻 BEAMCOMIX


ありがちなメイドさん萌え漫画を予想したのに、全然違った。メイドさんメイドさんでも、ここに居るのは正真正銘の「maid」さん。

舞台は19世紀末、英国はロンドン。産業革命に代表される変化が押し寄せつつあるとはいえ、いまだ厳格な階級差が人々の生活全般を律している。ロンドンにいかにも灰色の雲が似合っていて、なぜか懐かしい気分にさせられてしまう。そんな時と場所で、町でも噂の美貌を持つメイド・エマと、ジェントリのジョーンズ家の跡取り息子・ウィリアムが、次第に心を寄せ合ってゆくが……というストーリー。

エマの表情がたまらなく良い。いつも寡黙で感情がなかなか読み取れない。それはウィリアムとの仲に階級差が影を落とすようになっても変わらない。読んでいてもどかしくもある。しかし、その表情の意味がいつのまにか腑に落ちてくる。そもそも、メイドと上流階級の恋愛など夢物語なのだ。諦めてしまって当然、それは「悲劇」というロマンチックなものなどでは絶対ない。無表情の向こうが理解できてしまったとき、エマを通して「19世紀末のロンドン」の空気がものすごくリアルに感じられてくる。

エマに限らず、時代考証が云々とか現実的歴史的にどうこうを越えて(時代考証もしっかりしているが)、人や町がページの中でたしかに息づいているのが分かる。エマとウィリアムがクリスタル・パレスのなかから見上げた満月。ターシャがぼやきながら汽車の窓から視線をただよわせた丘。どちらも、ふと時代の向こう側を眺めてさまよい出てしまい、時代を外から眺めてしまっている視点である。こんなことまで描けるマンガは、そう簡単には見つからない。

作者は外から断罪したり利用したりするのではなく、徹底的に内から見つめている。つまり「19世紀末のロンドン」に公平なマンガなのだろうと思う。

という訳で、滅茶苦茶続きが楽しみなマンガの一つに文句なしランクイン。

『十兵衛ちゃん2シベリア柳生の逆襲』

ようやく前作を見始めたところなので(どこもレンタルされまくり過ぎ)、僕にはそもそも何も言う資格はないのですが(なんか声優に問題ありということが議論されてますが)、それでもあえて言わせて下さい。
             大地丙太郎、天才!!
一見の価値ありです。とにかく、この「間」がたまりません。『こどものおもちゃ』で見せてくれた、パラノイアックにどこまでも独走していくハイテンション、『おじゃる丸』の「まったりまったりまったりな」の低温度。どちらか一つだけを取ってみても稀有なはずの両者を接合するかのような、映画的と形容したくなるほどの実にたっぷりとした、「間」。あるいは、シリアスとギャグのあいだを自由自在に行き来する、「間」。たぶん、人によって好きか嫌いかが大きく分かれると思いますが、このねじくれた時空間を、せっかく今の日本に住んでいながら見逃す手はないです。いや、大地監督、本当に天才です。
あと、スタッフロールには笑いました。神作画につぐ神作画マッドハウス恐るべし、とは思っていたのですが、作画のスタッフ、多すぎです。そして、意味不明のロシア語の声を、ユーリ・ノルシュテインがあてていた?! ギャグじゃなくて、本当にユーリ・ノルシュテインなんですかね? いまいち事情が分かりませんが、もしも本当ならば、大地監督も相当に気合を入れてこのアニメに取り組まざるを得ないということになりそうです。そんなことも含めて、次回からも期待してます。
あ、渋谷のTSUTAYAで『十兵衛ちゃん』を借りている人、早く返して下さいなw